■RAAMって何?
・RAAM - Race Across AMerica、自転車によるアメリカ大陸横断レース。
公式では「世界で最もタフなレース」をうたっているが、一部のプロにしか参加できないようなものではなく、私のような趣味サイクリストでも参加できるホビーレースだ。
参加した2018年には37回目を迎え、超ロングディスタンスのレースの中でもわりとメジャーな大会となっている。(とはいえ世界でもやっぱりこのジャンルはニッチ)
10数年前にブルベと出会って超ロングライドの世界に足を踏み入れ、「速く走ること」への憧れもあった私は、いつしかRAAMに参加したいと考えるようになった。
長距離走ることが好きで、そこで人と競いたい、そう思ってしまった以上はレースという形のイベントに出てみたかった。それにやっぱり「自転車でアメリカを横断」ってスケール大きくていいじゃない。
2018年のコースは西海岸カリフォルニア州オーシャンサイドから、東海岸メリーランド州アナポリスまで。距離4939km、獲得標高54701mを12日間以内に走る。
レースは1分間隔スタートのタイムトライアル形式でドラフティングは禁止。ソロ参加者の数は50人ほどで、スタートしてしまえば他の参加者を目にすることはあまりなく、速度を競うレースといってもアドベンチャーライドに近い感じ。
コースの見どころは45℃を超える序盤の砂漠地帯、標高3300kmのロッキー山脈越え、強風吹き荒れる広大なカンザス、そして最後に待ち構えるのは、最高標高こそ低いものの細かなアップダウンが延々と続くアパラチア山脈。アメリカ横断といっても単に直線を引くのではなく、わざわざキツくなるようにルートを作成している感がある。
レーサーの補給や護衛を行う「チーム」を自前で用意し、クルーも含めた休憩の作戦を立てて広大なアメリカを横断するレースは、単独のサイクリングとはまた違った楽しさがあるに違いない。でもただの素人自転車乗りの自分に、このレースに参加することなんてできるんだろか。
RAAM通信vol.1:RAAMって何?でもう少し詳細にルール等の説明をしています
■チーム作りと参加資格の獲得
RAAMでは自前で最低2台のサポートカーを用意、うち1台で自転車を追走することが義務付けられている。
チーム人員の確保やレース中の費用など参加のためのハードルは大きく上がるが、サポートカーがいることにより・補給や寝床の確保・後続車両からのブロック・着替えの用意、といったことが可能となる。レーサーは走ることのみに集中して5000kmペダルを回し続ければよく、私にはここが魅力的だった。
最低限必要なサポートカーは2台。クルーの睡眠時間ローテーションや、食料品調達といったサポートカーのサポートを考えると我々のチームは3台体制にしたほうが都合よさそうだ。
ブルベで知り合ったサイクリストの友人たちに声をかけた結果、12名がクルーとして協力してくれることとなった。また、参加記念で作成したジャージも多くの方に買って頂いた。台湾のサイクリストのみんなありがとう。
さてこのRAAM、参加するにはチーム作りの他にもうひとつやらなくてはならないことがある。参加の門戸はアマチュアに広く開かれているといっても、そこは世界一タフを自称するレース、あまりに走力のない人だと命にかかわる事故を引き起こしかねない。「指定されたレースを基準速度以上でゴール」して参加資格を手に入れなければ参加はできない。
RAAMと同じ時間にスタートし、序盤部分1400kmのみを走るRace Across the West(通称RAW)もこのRAAMクオリファイレース。RAAMに参加するにはまずこれで雰囲気を掴むのがいいという公式の勧めもあり、2015年、RAAM参戦に向けてのスタートは3年前のこのレースで始まった。
■2015年RAW、ぜんぜん足りない最初のレース
翌年のRAAMのための前哨戦、チームは私+4人のクルー。クオリファイ獲得の為の制限時間はそんなに厳しそうには感じられない。あくまで本番は翌年で、こんなレースは簡単に、いや簡単とまでは言わなくても問題無く完走できるんじゃないかな。
痩せ型の私は寒さがとても苦手だ。布団が大好きでブルベを夜通し走るのも苦手だ。そんなんで1400kmのレースなんて走れるの?と思われそうだが、このレースにはサポートカーがいる。2000mを超える山岳地帯では車から真冬用ジャージを渡してもらえばいいし、眠くなったら車で仮眠すればいい。
獲得標高16000mは、ガタイのデカい海外選手と比べたら有利に働くだろうし、このレースって結構私向きかもね。優勝は難しくても、なんとか上位(参加10人中4位とかね)に入って次に繋げたいところ。
勇んで参加した2015年。「寒いの弱くても暑いのは強いからな」なんて勘違い甚だしかったのだと、地中海性気候で過ごしやすい東海岸をスタートした、わずか100km後に思い知らされることとなった。
日陰などない。この日の最高気温は48℃
風が熱い。暑いのではなく、熱い。普段は心地よい走行中に前方からくる風は、まるでドライヤーを顔の前に突き付けられているかのよう。気温45℃超は味わった事のない世界だ。体にかける用としてボトルに入れていた水をガブ飲みした結果、体内のナトリウム濃度は、体が水を欲しなくなるまで薄くなってしまった。そう、「低ナトリウム血症」だ。
国内ブルベやGWのサイクリングで、だいぶ長距離走ることにも慣れてきたかなって?この時の私は、こんなエンデュランススポーツの基本中の基本の対策もできていなかった。
腹筋など体幹部にまで起きた激しい攣り、それでも走り続けた結果、全身痙攣と共に意識を失い落車、救急搬送される事態になってしまった。熱中症と、脱水が引き起こす横紋筋融解症、体の筋肉が壊死して血液に流れ出る症状らしい。2日間は妻の認識もできず、わずか266kmでのリタイア。
意識を失い救急搬送。ER->ICUに運ばれ、意識がハッキリしたのは2日後。
走力だけじゃない、知識も、準備も、何もかもが足りなかった。折角参加してくれたクルーには入院リタイアという嫌な思いをさせることになったし、応援してくれた皆も、すまない。
2015年RAW参戦記
■2016年RAW、準備はしたものの
無様なリタイアから半年。ブルベではない長距離のレースに参加した楽しさは忘れられなかった。妻の静止も押し切って翌年のRAWにまたエントリー。
使用前
暑さはヤバい、暑さは死ぬ。身をもって体験した今回は、気化熱を利用した冷却ベストやミスト状に水を噴出させるボトル、ストッキングに入れた氷で首を冷やす小技など暑さ対策を入念に行った。効果があるかどうかわからないけど、出国前暫くはストーブ点けてローラーしてみた。ドリンク不足から口に含んで低ナトリウム血症に陥ることの無いよう、体にかける用の水ボトルにも必ず塩を混ぜることにした。もちろん体はベタベタになる。
無造作に荷物が突っ込まれたウサギ小屋のような狭さのサポートカーから、広いミニバンに変更。補給食&衣類仕分け用の棚や、ウォータージャグの設置と、クルーの居住環境もかなり改善、準備はバッチリだ。
気負いからのオーバーペースもあってか、蓋を開けてみれば2日目で胃の不調による失速。レースである以上少しでも上の順位目指そう、そんな目標をRAAMクオリファイ獲得に下方修正し、休憩を加えつつなんとかゴール地点、デュランゴに辿り着いた。
最低限の目標であるRAAM参加資格が得られてホッとした気持ち半分、思い描いていたものとは程遠いレース内容になってしまった悔しさ半分。
使用後。焦げた…
RAAMはこの先もまだまだ、あと3400km続く。これは本当にレースじゃなくてサバイバルだ。脆弱な私の体は、ほんの少しのミスで簡単にリタイアへ転げ落ちてしまう。その過酷さに、きっと魅かれているんだろう。
そうだ、この年のRAWはレースエントリー開始後にコース距離が105km伸びた。実に7.5%の増量で制限時間は同じという大サービス。これ他の大会なら暴動が起きるんじゃ、って値だけど、主催者から「これまで完走の為に努力してきたオマエらなら、100km延びたところでどうってことないだろう?オレたちは信じてるぜ(意訳)」ってメール来て終わり。まったく、イカ
2016年RAW参戦記
おもしろそう。
返信削除今更のコメントでごめんなさい。最高に楽しかったです。
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