2014/09/01

SR2400_08:勇み足とリタイアの危機

□8/12
○ホテル出発 8/12 2:55
  天気予報を確認すると飯田は9時頃からHeavyRainとあった。
9時まではまだ時間がある。降りだす前にどこかで行けるかが勝負だろう。乗鞍は、やっぱりダメそうだ。

○PC5 飯田駅 8/12 3:03

  夜明け前の飯田駅。駅前にあまり店は無く、暗い。気温は15℃と肌寒かった。

  さて、頑張って走るぞ。
  飯田からは飯田峠、大平峠と続く2つの峠。すぐに町を抜け、街灯一つない山道へ。登りのため気温の低さは感じない。

  数kmと走らないうちにいきなり雨が降ってきた。本当に瞬く間の大雨で体は一瞬にしてびしょ濡れ。
  そもそも山道で退避する場所もないし、こんな状況でカッパを取り出すためにサドルバッグを開けたら中身がビショビショになってしまうから、このまま登りきってからなんとかしよう。急な激しい雨は急に止むことも多いし。

  この判断が、多分今回のロングライド中で一番の間違いだった。
  登りだから発熱し続けられる、確かに普段の体調だったらそうかもしれない。しかしここまで900km、台風の中を走ったダメージを体は想像以上に受けていた。「乗鞍に裏から登る!」と意気込んで睡眠が少ないまま出発したのも良くなかった。
  飯田峠の頂上に着いた頃には汗と雨とで体は完全に冷え切っていた。しかもバカなことに大平峠が続くからと、そのまま下りに突っ込んだ。

  飯田峠と大平峠の間に集落があってよかったと思う。この軒下が無ければもっと大変なことになっていたに違いない。
  体を拭き、持っていた服を全部着るがもう手遅れ。全く体が温まらない。眠い、わけではなくて意識がどんどん遠のいていく。低体温症になりかけている、とにかく体を温めないとマズい。

  実はここ、食事処で五右衛門風呂もあるようだ。時刻は5時前、家の人をたたき起こして風呂に入れてもらおうか本気で悩んだ。
  でもやっぱりやっちゃいけない気がする。通常の商売以外で助けを借りるのは自分が責任を負うのブルベマインドに反するし、仮にするとしたらそれはリタイアする時。

  体は全然温まらない。夜が明けて辺りは明るくなってきた。腹を決めて、先に進むしかない。
  次の大平峠さえ越えれば国道に出れる。そしたらコンビニで服を買ってもう一度着替えよう。温かい物を口にすれば少しは良くなるはず。奮い立たせて大平峠へ。

  皆が路面が悪かったと口にする大平峠。
台風の直後なこともあり、本当にひどい。夜が明けていてまだマシだった。

○PC6 大平峠 8/12 6:02

  普段安全のために寝不足で無理して走らないなんて言っている。400や600のブルベでは途中でホテルに泊まるようになった。2007年のPBPで眠いまま走って事故にあい多くの人に迷惑をかけてからなんだけど、この時は多分走ってはいけない状態だったかもしれない。

  どうやって国道256号まで下ったのかは覚えていない。途中ローソンに寄ろうとしたのと、何故か茂みの中からたけさんが手を振っていて「なんでこんな所にたけさんが居るんだろう?応援かな」と思ったことは覚えている。

  気が付くと幅の広い国道を走っていて、後ろからカラカラと音がする。なんだろう?

  乗車姿勢のまま撮ったのでわかりづらいか。長さ50cmほどの枝がRDのワイヤーの間に挟まって引きずられていたのだ。

  「なんだこれー」って外してポイしたが、ひとつ間違えればスポークの間に巻き込まれたのかもしれない。なんにせよ、本当にギリギリだった。

  そして国道に出ればコンビニや店があるといった思惑は外れ…

  比較的暖かさを感じたトンネルで寝た。
  寝たら死ぬのか?いや、今の気温だったら大丈夫だろう。それよりも意識がヤバイ。低体温時にコーヒーは含まれたカフェインに利尿作用があって脱水を引き起こすから摂取しないのが基本なはずだが、前に進むためにはもう少し頭に動いて貰うより他は無かった。一眠りした後はカフェイン錠剤を飲んで先へ。

  そうそう、DynePackのこの防水カバーはカバー内に水が溜まりまくってダメだと思う。まあ20mm/hを超えるような雨の中走るのって考えられてないんだよな。水抜き用の穴を開けるべきか。

  トンネルを抜けて暫く走るとようやく物産店のようなところへ。ちょうど店の人が車でやってきてOPEN。
  これで温かいものが食べられる、と中に入ると売っているのは野菜だけ。外の自販機もすべてCOLD。

  標高が下がって気温は19度ある。
  大平峠前で着替えた長袖インナーはGOREカッパ上下のおかげでそこまで濡れてはいない。体は冷え切って意識もおかしいが、そこまで危険な状況では無いはずだ。温かいものにはありつけなかったが手持ちの非常用チョコレートを食べ、暫くベンチでウトウトする。

  同じくSR600の3連戦に挑戦しているタカトリは1本目のNihonAlpsが乗鞍通行止め後DNFで草津に移動し、この雨の中2本目(ツーリストスタート)の渋峠に登ろうかどうしようか悩んでいるようだ。

  そう、3本連続の意味を僕たちは甘く考えていた。台風の中、大雨の中、2000m峠に向かっていくことはできる。問題なのはそこでダメージを受けながら、2本目で同じことを繰り返すことが出来るかどうかだ。完全防寒とはいえない夏用装備で下りの寒さを味わうためにまた頂上へと向かう。本当に吐き気がする。

  「zucchaのいるところ真っ赤だけど大丈夫なのかな」とのツイートがあった。「大丈夫じゃない」とだけ返信する。
  見事なまでにこの先のルートが赤い。Fujiの台風が終わり、後は落ち着いた天気になるのでは無かったのか。少なくとも出発前の天気予報ではそうだった。あの豪雨の後にまだこんな洗礼を受けねばならぬのか。

  キャリアが壊れたり、ホイールフリーのバネが折れたり、散々なSR2400だった。
  しかし諦めが頭をよぎったのはここだけ。一番大きなのは乗鞍。このまま先へ進んでも乗鞍スカイラインは通行止め。SR600NihonAlpsの認定が出ないのは確定している。「認定」を考えたら走り続ける意味なんて全くない。さっさとリタイアして、次の北関東に備えればいい。そう、我々はプロじゃないんだ、苦しみながら走る必要なんてどこにもない。

  オマエはそれで満足できるのか?と思う。
リタイアして、次の北関東を走って、それで満足なのか?と思う。
雨はいつかは上がる。晴れた気持ちのいい峠を、ここでリタイアしたオマエは気持ちよく走れるのか?

  月並みだけど、妻のことを考えていた。
  「アナタは何になりたいの?」「(会社辞めてブラブラしてたこの3年半は自転車的に)無駄だったの?」妻は良く言う。別に何かになりたいわけじゃない。多分こうして走っている私が私なんだろう。

  3年半、確かに速くなっていない。でも毎年繰り返してきた夏のロングライドで、長距離走ることの経験は学べたはずだ。その結果が昨日のハンガーノックや今日の低体温なんて余りに情けないけど、それでもこの3連戦を3年半の集大成にしたいと思った。リタイアしなかったのは3連戦をもう一度やるのが仕事休み的に難しかったからじゃない。そんな風に考えていたら、止めるわけにはいかなかった。

  多分妻の望みは、何事も無く無事に帰って次の日しっかり出社することだと思うけど…

  飯田を出発してからここまで60kmに6時間かかっている。乗鞍を逆から登るどころか、今日中に松本に着くことすら怪しい。でも前に進める限りは諦めるわけにはいかない。

「止まない雨は無い」
「止まない雨は無い」

念仏のように繰り返した。

  下呂の街並みが見えてくるにつれ、雨は次第に弱まりだす。動かなかった体も少しずつ回復している。

○PC7 下呂駅 8/12 11:12
  駅到着少し前に雨はあがる。止まない雨は無い。

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