2015年8月30日日曜日

PBP2015 その6:気分はリタイア

  ブレストのPCは前回とは違うみたいだ。大きな橋を渡ってからこんなに距離もアップダウンも無かったもの。
  PCに到着し、トイレで鼻をかんだ。んー紙はいいな、もうこのベタベタのグローブで鼻を拭うのは無理だ、こいつは捨ててトイレットペーパーを沢山貰っていこう。

  幸いにも気温は上がってきていて日差しが心地よい。でも寒気はするし、鼻水の流出速度はドンドン加速していて蛇口の壊れた水道のように流れ続ける。仕方ないのでトイレットペーパーを鼻の穴に詰めた。これ、冬のブルベでどうしようもない時にやるんだけど、ここフランスではやりたくなかったなあ。今は真っ昼間、沿道で応援してくれてる人が「何あれ?鼻に何詰めてるの?どこの国の衣装?」ってなってちょっと恥ずかしいじゃない。
  街中を通る時は手で鼻の辺りを隠すようにして通過。まあそんなの誰も気にしないだろうけどね。

  眩暈と悪寒が続くため、途中の芝生でちょっと寝ることにした。今回のPBP、外で横になったのはこの1回。暫くウトウトした後、目が覚めたら調子が回復した気がする。そうだ、ブレストのエイドで風邪薬を貰えばよかった。うーん今から戻るのは流石に遠回りか、ルディアックに着いたら貰おう。

PC7:Carhaix,703km 25時間53分
  途中で寝たのもあって速度はかなり落ちている。とにかくルディアックまで戻って風邪薬を手に入れないと。

  おそらくここCarhaixにもエイドはあったのではないか。それに街中の薬局で風邪薬を買うという選択肢もあったはずだ。(過去フランスで買ったことがあり、自分の英語&ボディーランゲージでなんとかなるのは経験済み)
  もう全く頭が回っていない。ルディアックまで戻って風邪薬GET、走る目的はそれだけだった。鼻に詰めたトイレットペーパーは時間と共にグショグショになるので適度に新鮮なものと差し替え。

  Carhaixを出るとすぐ4人組の集団に出会った。同じ方向に走る自転車を見るのは久しい。暫く後ろについた後に前に出る、結構な時間前を引いてそろそろ交代して欲しいなと右に寄って手でサインを出すが、誰も前に出てこない。速度を嫌がらせのように落としてみても嫌がらせのように前に出ない。えー???
  前回のPBP、黒澤さんと上保さんが「イタリア人は前を引かねえ」と嘆いてたっけ。多分この4人は知り合いのパック(国は確認していないがイタリアでは無かったと思う)。私が加わるまで普通にローテーションしてたじゃない。ここまで露骨に参加を拒否するかねえ。
  最後尾に無賃乗車するという手もあるが、この人数でそれはあんまり楽しくないし、ちょっとカチンときたので加速して後続を引き離す。オマエラと走るメリットなんて無いんじゃ。一人で走ればいいもんね。

  勢いよく飛び出たはいいがなんとその直後にシークレット。係員が道を塞ぎ、コントロールだよと誘導する。ブルベカードにチェックを受け、トイレに寄ってる間にその4人に先行された。
  んーこっちから願い下げだって飛び出た集団にまた追いつくのはバツが悪いなあ。しかもよく考えたら抜かして先に行ったところで次の集団に直ぐ出会う確率なんて限りなく低いじゃん。今更混ざるのも…
  やはり一人で走り続けるのは疲れる。出来れば誰かと走りたい。日が陰って気温も落ちてきたので着替えながら後続を待つことにした。

  …20分。誰も来ねえ。
しかもここは往路と復路で違うルートで(720km付近)待ってる間全く人を見ない。これが本当に6000人も参加しているPBPなのか。諦めて一人先へ。
  丁度空白地帯だったらしく、その後は1人で走ってる人にはちらほら会った。往路なのに間違えて復路に入ってしまった集団がいて「道わかんないんだけどGPS見せて」「いやこっちパリだから、ブレスト反対、間違ってる」ってやりとりをした。暗くなってきた中、ルディアックに到着。

PC8:Loudeac,782km 30時間3分
  もう無理だ。ここまで鼻水を垂れ流しながら走ったブルベはいつだったか。神奈川の富士1周200kmはゴールするなり「もうブルベなんて走らねえ」思った。北海道1200kmに向かった時も風邪気味で予定変更してホテルで1日寝たっけ。200km程度なら我慢も出来るが、あと450kmこんな状態で走るのは無理だ。
  まず温かいものを食べたい。パンを胃に流し込む作業はいい加減飽きた。PBP名物のフニャフニャに伸びたパスタでもいいから食べたい。ここルディアックでリタイアすれば食堂で好きなもの好きなだけ食べられるじゃないか。

  それに今回のPBP、速く走るのは目標ではあったが一番重要なのは無事に帰ること。妻には「アナタは前科2犯なんだから(今年のRAWと2007年PBP)」と念を押された。ゴール間近で胃に穴が開いて入院した岩本さんの姿が浮かぶ。このまま走り続けて果たして無事にサンカンタンに辿り着けるのだろうか?

  五分五分くらいかな、と思った。スタート前は50時間を切れる可能性は2割くらいだと考えていた。速度は思った以上に回復していて満足行くレベルで走れている。で、こんな時に風邪とかもうホント馬鹿でやってられないんだが、まあ5割なら悪くない。やってみる価値はある。
  RAWでの入院が無かったら先に進んでいた気もする。ロングライドで大事なのは体を壊さず終えること、自分の力を知っていればどこで止めるべきかはわかるはずだ。このままルディアックを後にしたら最後まで走るか倒れるか、ゴールできるかどうか全くわからない。残念だけど、今回その賭けに出ることは出来なかった…

  待っている妻がどうとか、入院してまた2ヶ月後に病院のお世話になるわけないはいかないとか、正直言うとそんなのは関係ない。
  往路のルディアックを出てからブレストで折り返しここに戻るまでの300km、本当にキツかった。あと450km続けるのはそれよりずっとずっと厳しい。2日目の夜、寒さと眠さも加わるそのキツさを想像し、耐えられないと思った。リタイアして食堂で温かいものを食べながらゆっくりしたかった。

  ここまで速く走ってきたため時間の余裕はある。ここルディアックで24時間寝ても体調が回復すれば80時間の制限時間には間に合うと思う。ただPBP完走は前回してるし、一眼レフも持たず、美味しい物も食べず、速く走ろうとした今回は完走なんて最初からどうでもいい。


  悔しい。結局また僕は、何も成し遂げられないまま終わってしまう。
だったら走れよ、まだ脚は動くだろう。何度も自問自答したがゴールする姿が思い浮かばなかった。

  リタイアした人の気持ちはこんななのかもしれない。悔しい、だったら走ればいいじゃないか、でも…
そして僕は、走るのを諦めて食堂へと向かった。茫然と食べるフニャフニャのパスタは、やっぱりちっとも美味しくなかった。

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