2015年9月2日水曜日

PBP2015 その8:世界にはばたけソロタンデム

「あれ?鎌野さん、どうしたんですか?」
「あーリタイアしました」

  聞けば奥さんの胃の調子が悪くなって走れなくなってしまったそう。
  このPBP日本人リタイア原因第3位(想像)が胃腸問題。過去にそれで走れなくなった人を何人も見ている。
  今回私が最後まで走り続けるのを諦めたのも5%くらいは胃のせいだ。普段と環境の異なる海外でのロングライドは想像以上に胃に負担がかかる。

  鎌野家は大量の日本食持参という力技で相当な準備をしてたがダメだったようだ。日本食だけの問題ではなくコンビニが無い中走り続けるのは勝手が違うし、気候も違う。それに胃のダメージは強度に依存するところがあって、もしかしたら周りの熱気にやられて、それから貯金を少しでも得る為に、少し頑張り過ぎてしまったのかもしれない。

  奥さんは今はひとまず落ち着いてはいるようだ。
そして鎌野さんが困っていたのはタンデム。このデカいタンデムをどうやってサンカンタンに運ぶかという問題。
  TGVは自転車はOKでもタンデムはダメだと明記されている。分割出来るタンデムのため小さくすることは出来るが、専用のケース無しでダンボールや袋に突っ込んでの輪行だと結合部分の金具を痛めてしまう可能性があり、そうなるとフレームがダメになってしまう。と鎌野さん。

  海外で奥さんの調子が悪いだけでも大事なのに、タンデム運搬を考えないといけないなんて吐き気がするほど大変だ。国内ですら疲れて走れなくなった中、分割出来ない我が家のタンデムをその辺に捨てて帰ろうと思ったことが何度もある。

「乗っていきましょうか?」
軽い気持ちで聞いてみた。冗談とまでは行かないが、賛同されるとは思っていなかった。

少しの間、そして
「zucchaさんがいいのならソリューションとしてはアリかも…」

  えっ?まさかの好反応。
私は全然問題無いよ、一人でタンデムに乗るのは多分日本で一番慣れているし、ソロタンデムでPBPを走りたいなとも思っていた
  速く走ることを諦めて後はダラダラと走るツマラナイ帰路を想像していた中、こんな面白そうなイベントは無い。でも鎌野さんは大切なタンデムを私に任せてしまって本当にいいのだろうか?

  冷静に考えてみよう。この自転車は超高級品だ、何かあったら…
いや高級かどうかは関係無いか、人の自転車を無事にパリまで乗って帰る、それが私に出来るか?

・完走しても認定されない
  途中でホイール交換あたりなら確実に認められる。フレーム交換も多分大丈夫だ。しかしロードからタンデムに乗り換えるというのはアリなのだろうか?
  2人乗りになったらカテゴリーが違ってしまうからマズイかもしれないが、これは自転車を交換しただけ、大丈夫だろう。有利になることは何一つ無いし、フランス人そんなケツの穴小さくない(というか杜撰で気にしない)。仮に認定出なかったとしても別に構わないしね、私のPBP2015は失敗に終わったようなものだから。

・車にはねられる等の大きな事故に遭う
  最も考えたくないパターン。しかし自転車が全損になってしまえば保険が出る。海外の業者と時間をかけてやり取りし、フルオーダーで作った自転車を単なるお金で弁償していいかどうかという問題はあるが、まあこれを深く考えるのはヤメよう。

・睡眠不足でフラフラと走って前走者や路肩に突っ込む
  さっき8時間寝て起きたところ、睡眠はしっかりとれている。タンデムでの速度低下を考えても今晩どこかのPCでもう一泊するくらいの時間的余裕はある。これは問題無し。

・睡眠不足でフラフラと走っている後続に突っ込まれる
  一番気を付けなければいけないのはこれだ。自転車乗りは前走者の背中で距離感を掴むため、後ろに人がいないソロタンデムだと横から突っ込まれる可能性がある。出来る限り危なっかしい人には近づかないこと、それから後ろに人をつかせないこと。
  ただこの時間にルディアックにいるというのは相当走れる人で、眠くてフラフラは少ないはず。死ぬ気でタイムを狙う位置でもなく、一番安全な時間帯かもしれない。夜中に走るのを避ければ貰い事故の確率は低いのではないか。

・途中でリタイアする
  リタイアしてタンデム運べないのでタンデム運送業者にお願いしたら業者もリタイアした。「アナタたち一体何がしたかったの?」こんな大失態は避けたい。ここまでの780kmで体の痛みは出ていない。心配なのは風邪の症状だが、この先頑張って走るつもりも無いし大丈夫だろう。

・ポジションの違いで体を痛める
  上のリタイアに関連。鎌野家タンデムのパイロットは奥さん「のんのん」。私とは20cm程の身長差がある。サドル高だけ合わせた自転車で体に障害が起きないか?
  久々にママチャリに乗って近所のスーパーに行ったら膝を痛めた、そんな人はあまりいない。それは近所のスーパーまで行くことが取るに足らない強度だからだ。
  私にとって「残り450kmを走ることは近所のスーパーに行くことと同じレベル」であればこれは取るに足らない問題である。いや、なんかそんな風に言うとカッコ良さそうだから言ったみたけど、流石に近所のスーパーとは違うだろう…


  速く走るということは、恐らくこのBlogを読んでる多くのサイクリストが想像してる以上に体に負担がかかる。目標を「安全に完走する」に切り替えた場合、自転車がタンデムだとか、ポジョションが全然合ってないだとか、味わう予定だった辛さと比べたらそんなものは些細な問題に過ぎない。だいたいRAAM走りたいなんて言ってる人がこの程度走れないでどうするよ。

  ほんの少しの逡巡の後、「私は全然問題ないよ、鎌野さんは本当にいいの?」もう一度聞いてみた。

  奥さんの体調不良、準備万端で挑んだPBPのリタイア、そしてタンデム運搬という頭を悩ます問題。きっと鎌野さんは正常な判断が出来なくなっていたんだと思う。タンデムを私に託し、代わりに私の自転車を輪行してサンカンタンを目指すことで合意した。

  自転車をホテルに取りに行っている間、ゆりかさんと出会う。彼女もここ往路ルディアックでリタイア、旦那が一人で走っているとのこと。

  「鎌野家のタンデムで帰る事になったよ」なんて話してると戻ってきた。奥さんも一緒だ。体調は大丈夫?

  ペダルとボトルを交換、空にしたサドルバッグに防寒着を詰めた。
  ブラケットが異なったため自分のGPSをビニールテープでハンドルに固定し、シートポストを上げてサドルを後退させ、ストーカー(後ろの席)に牛監督を括り付ける。お前、代行のクセに出世したなあ。

  交換したのはこれだけ。薬や工具を自分の自転車と一緒に預けてしまい後で後悔することになる。
  Di2のバッテリー交換や尾灯の説明を受けて出発。ハンドル位置がキツイが、まあ少し乗れば慣れるでしょ。


ゆりかさん撮影

  泥船に乗ったつもりで任せとけ!なにせこちとらタンデム運搬のプロだからな。
明日の夕方、サンカンタンで。

2 件のコメント:

  1. とってもおもしろい成り行きですね。私も真似したいくらい。

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    1. イロモノ系って周りから思われるよりずっと楽ですよね。
      今回のポイントは鎌野さんが自転車を託してくれたところだと思います。お蔭でとても楽しめました。

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