2017/07/10

2016RAWその16:モニュメントバレーの夜明け

  3回目の夜間走行、この区間はホントボロボロだった。

  斜度1%の緩やかな登り、眠気というよりは疲労で、少し漕いでは脚を止めるという疲れ切った時の漕ぎ方で前に進む。
  後日確認してみても平均速度は25km/hを上回っており、そこまで遅いとは本人は思っていないのだけれど(まあ遅いが)、時折脚を止めて滑走している間が20km/h以下に落ち込むため、車内のクルーは「どうしようもなく遅せぇ」と判断していたようだ。

  極めつけはトランシーバーの電池切れによる私の無応答。「これは寝ている」と判断され何度か停止を指示された。いや、実際かなり眠くてフラフラとしていたのだと思う、15分の休憩、少し走って30分の休憩、それでも体は全く回復しない。
  ゴール後の完走パーティーに参加しようとしたらもう長時間休憩する余裕はない。だからなんとかして走りたかったのだけれど、クルーからは危ないから停止の声。一つ前のTS、Tuba CityではRAAMクオリファイタイムに対して13時間の貯金があった、ここは安全に行くべきかもしれない。

  2時間半程寝て、その間に外はすっかり寒くなっていて、「もう行けるよ」と長袖ジャージを着込んで出発。
  アリゾナに入ってからずっと、寝て起きても回復した感じがしない。幾ら睡眠に弱いとはいえ、普段ブルベならこれだけ寝れば頭はスカっとするのに、常にベールを被っているようで、体全体も重いというかダルさが続く。

  車から出ると左前方に強い光。走れど走れどその光は一向に近づかなくて、最初は列車か何かが道と並行に走っていると思った。
  これ幻覚じゃないよね?さっきから何故か前に進まないんだけど、とクルーに連絡すると、その光は確かにあると言う。一直線の、何も変わらない道の先に光る謎の物体、何故あれに近づけないのだろう?

  30分ほど走り続けた時点でその正体が明らかになる。とても巨大な建造物、たぶん何かの採掘場だろう、豪華客船のような物体の上部に地上から線路や道路が続いていた。ひたすら続く遮蔽物のない道にこんなものがポツンとあって、ホント、スケール感がおかしくなる。


■TS11:Kayenta(1206.8km)

  交差点にあるGSがチェックポイント、長かったルート160が終わる。スタートから62時間58分、区間グロス速度は12.6km/h。トラブルを考えるとあまり時間に余裕はない。
  併設の店でカップ麺を買ってお湯を入れた。持ってきたアルファ米を突っ込んで食べる、醤油味が冷えた体に染みわたる。店内では警察官に「なんだ?レースやってるのか?どこから来たんだ?」と聞かれ「日本から」と答えると「スタート地点はどこなんだ?」
  「オーシャンサイド」「何だって?」「オーシャンサイド、カリフォルニア」「クール!」警察官は信じられないと言ったように肩をすぼめて去っていった。レースの連絡を受けて見回りに来たのかと思ったけど、全警察官に連絡行ってるわけじゃないのかな。


待望の夜明け


朝焼けに染まる岩山

  この先はモニュメントバレー、どうやら最高のタイミングでこの場所に来れたようだ。
  初日の夜、わずか500kmで調子を崩して失速していた体は、ここにきて急激に回復している感覚がでてきた。美しい朝焼けで元気が出たのか、完走できると確信したから元気がでたのか、とにかくもう今までの苦しみは無い。走る楽しみも戻ってきた。


上体の起きていたポジションも少しマシに戻っている

  テーブル状台地メサより更に浸食が進み、孤立した岩山となったビュート。ここモニュメントバレーにはそんなビュートがまるで記念碑のように立ち並ぶ。


空に浮かぶシルエット

  最初の朝日を見た時に「ドラッケンのようだ」と(多分普通の人には)よくわからない表現をした。真っ直ぐ続く地平線から天頂まで、単純にグラデーションをかけただけの空。
  日本でもロングライドを楽しみ、夕焼けや朝焼けの美しさに目を奪われたことは何度もある。でもその美しさは、赤く染まった雲や、それを反射する水田が核であって、こんな単純な色の変化を綺麗だと感じたことは無かった。

  ここモニュメントバレーでは、そんなシンプルな背景にビュートやメサのアクセントが加わる。
  徐々に色を変えていく空、赤みを増す台地、アクションカムを外してしまったことを最も後悔したのがこの地点だ。せめて写真を、写真を撮りたい。止まって写真を撮ろう!

  無線でクルーに伝える。クルーからは「なに言ってるんだコイツ」感。既に自分の中では復調の兆しが見え始めていたとはいえ、精神と肉体の回復には時間差があるようで、まだヘロヘロとした速度でしか走れていない私は「くだらんこと言ってる余裕あったらペダル回せ」と思われていた。

  いやでも、写真撮りたい、写真撮りたいよう。そうだ、日も昇ってきて暖かくなってきた。長袖ジャージを脱ぐということにして一旦止まろう。


しょーがねーなと皆


ゴールできなかったらこれが記念写真になると脅される


パノラマ(写真はクリックで拡大)


朝焼けの大地を進む


あー気持ちいい


こんなのや


こんなのがボコボコそびえ立つ

  コースはモニュメントバレーの外側を半周する。ナバホ族が管理する中央部は有料で、ホテルなどがあるそうだ。


草原の向こうが中心


ユタ州に突入

  カリフォルニア、アリゾナと来てユタ州へ。やっぱり何も無い。すばらしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿